冬季企画展「詩のありかに触れるささやかな試み」


2019年11月30日(土)-2020年2月22日(土)

本展は終了いたしました。たくさんのご来場、誠にありがとうございました。

※本展の直筆資料は全て複製またはパネルでの展示です

開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
観 覧 料 一般300円(団体20名様以上で一人200円)
中学・高校生100円
休 館 日 日曜・月曜・第4木曜、年末年始(12/27-1/6)
特別整理期間(2/11-15)
編集委員 栗原敦(実践女子大学名誉教授、日本近代文学館理事)

 

2019年度冬季企画展チラシ

 

冬季企画展「詩のありかに触れるささやかな試み」

詩はどこにあるか? と問えば、それは問う者の内か外か、いずれかの場や空間にそれがあることを予定しているかのようです。
また、詩が生まれる予感、と言えば、何らかのきっかけ、動機などの存在が想定されているのかも知れません。
とはいえ、おそらくは、詩は絶えずそれらの問いや説明をすり抜けて、いつでも、どこにでもひそんでいて、すべてを越えて見出だされることを待っている本質でもあるようです。
そこで、いくつかの共通する契機や場面、トポスといった切り口、また試みられた最初の形が書き改められていった経緯、作品の世界を構成する視線(焦点―視線―視座の転換や交錯、視点位置と語り手・作者の位置の交錯など)が織りなす多様な働きなどを手がかりにして、詩が生まれる様々なあり方を示してみようと考えました。
このささやかな試みが、詩への誘いのひとつとなるなら、この上ない喜びです。

(編集委員 栗原敦)

トポス―「橋」「海」「道」「空」

詩作品を掲げるにあたって、まず、いくつかの切り口をキーワード的に掲げて、表現の舞台や場面、あるいは背景、詩的表現へのきっかけ、付与された象徴的な意味など、様々なかたちで、そのキーワードと何らかの接点を持つ詩篇を配置しました。こういったキーワードは、数多く見出すことが出来ますが、このたびは「橋」「海」「道」「空」に絞ることとなりました。
個々の詩篇をはじめとして、相互に見比べて、重なったり、異なったりする世界の交わりや多様性を通じて、詩的表現の面白さ、詩的世界の深みなどを味わっていただくことが出来ると思います。同じ場所に焦点が当てられながら、それぞれの意味合いが、個々の詩篇、個々の作者によって、独自の個性を伴って立ち上がってくることなどがたどれます。

「橋」

萩原朔太郎「漂泊者の歌」「大渡橋」
宮沢賢治「薤露青」「空明と傷痍」
永瀬清子「熊山橋を渡る」
石原吉郎「橋」「橋があった話」
吉本隆明「佃渡しで」

「海」

中野重治「しらなみ」
高見順「荒磯」
林芙美子「一人旅」
茨木のり子「根府川の海」
中桐雅夫「海」
石垣りん「契」
吉原幸子「光る海へ」

「道」

高村光太郎「道程」
左川ちか「The street fair」
黒田三郎「道」「小さなあまりにも小さな」

「空」

室生犀星「罪業」
八木重吉「鳩が飛ぶ」
深尾須磨子「桃色の靄」「凧」
飯島耕一「他人の空」
田村隆一「幻を見る人 四篇」
牟礼慶子「優しい魂」
中原中也「羊の歌 Ⅰ祈り」
北村太郎「空」
入沢康夫「未確認飛行物体」

 

生成―鮎川信夫「橋上の人」をめぐって

「橋上の人」、その初稿第一作(全6連、57行)は、1942年10月に入営(近衛歩兵第四聯隊。1943年4月にスマトラへ転属)する鮎川信夫が「遺書のつもりで残してきた詩」です。掲載された三好豊一郎編集の詩誌『故園』(1943年5月)が「はるばると南方の陣地に送られてきたときの驚ろきと感激を」忘れないと記しています。1944年5月、傷病兵として内地送還となり、6月大阪港帰着。敗戦後、増補改稿された第二作(全7連、123行)が『ルネサンス』(1948年6月)に掲載され、さらに全面的に増補改稿された第三作(全8章、全16連、238行)が『文学51』(1951年7月)に掲載されました。
初稿第一作の情景は数寄屋橋あたりからの運河をボートで巡る中で得られたようですが、第二稿以降で、中心人物である「橋上の人」を配置する背景を立体的に構築し、その心の中での思いと彼自身の視線、そして、その彼を「あなた」と呼び変える語りの視線を交錯させ、歴史の中の現在を、社会的、時間的に位置づけ直すものへと作品を生成転化させていく表現者の営みは、高村光太郎が「道程」の長大な初稿を極度に刈り込み、組み替えて詩集に収録させたのと、逆の過程として比べることも出来そうです。

 

声―自作朗読を聴く

このコーナーでは、録音された貴重な詩人たちの声をお聞きいただきます。
近代的自我の形成は、沈黙を介して内面を育て、詩的表現においても黙読による受・発信からイメージや想像世界の展開や深化をもたらす意義を持ちましたが、一方、声・音声による詩的表現は、歌や朗唱・朗詠による受・発信などさえも越えた、詩の根源的なあり方を絶えず現在に呼び覚ますものであるとも言えるでしょう。
詩人たちひとりひとりの声による、息づかい、声調、流れやたゆたい、中断や停止、飛躍、転調等々から呼吸の示す生命のリズムまで、発語と沈黙との諸々の関わりを感じ取っていただけることと存じます。
〈川端康成記念室 *次の展覧会「震災を書く」でも継続いたします〉

朗読作家

川路柳虹、北原白秋、草野心平
斎藤茂吉、佐藤春夫、高浜虚子
坪内逍遙、西脇順三郎、萩原朔太郎
堀口大學、三好達治、武者小路実篤
室生犀星、与謝野晶子
ウィリアム・バトラー・イェイツ〈栩木伸明氏による書き下ろし解説〉
ウラジーミル・マヤコフスキー